世界の笑顔に出会いたい

写真家・高橋美香のブログ。 公園にいたノラ猫のシロと暮らす。 カメラを片手に世界を歩き、人びとの「いとなみ」を撮影。 著作に『パレスチナ・そこにある日常』『それでもパレスチナに木を植える』(未來社)『パレスチナのちいさないとなみ』(共著、かもがわ出版) 写真集に『Bokra 明日、パレスチナで』(ビーナイス)

2020年01月

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初めてロシア絵画を意識して目にしたのはいつだったのだろう。なんとなく暗くて、深い情念のようなものを感じて、思わずたじろいでしまうような不思議なチカラがあった。でも「好き」とは思わなくて、なんとなく敬遠していたように思う。それは帝政ロシアという時代の空気感を描いたような作品を目にして、その時代の「暗さ」を感じていたからだろうか。レーピンの「皇女ソフィヤ」や「息子を殴り殺したイワン雷帝」の作品やスーリコフの「銃兵処刑の朝」、数々の肖像画など…。眺めるだけで暗い気持ちになった。

それが不思議なことに、あるときそんなロシア絵画が気になって仕方がなくなった。いままで目を背けいていた絵を、画集などでじっくり眺めているうちに、不思議な愛着がわいてきた。有名なレーピンの「ヴォルガの船曳き」など、レーピンがその絵を描くために何度も通い、舟を曳いている人びととともに過ごし、その個性を描き出そうとしたというエピソードを知って、愛しくてたまらない一枚となった。レーピン、クラムスコイ、ペローフ、スーリコフなどの絵に魅力を感じるようになった。ああ、しつこいけどいつかトレチャコフ、ロシア美術館に行きたい。

さて極東美術館、イコンの部屋を抜けるとロシア絵画の展示へと至る。肖像画、風景画などの作品が並ぶ。相変わらずここにも人がいない。学芸員の女性が座っているだけ。嬉々として眺めているワタシを彼女も眺めている。

「あ、レーピンだ」と思わずつぶやく。ようやく対面だ。「そうレーピンの作品です。レーピンを描いたものではないですよ」と彼女が言う。「はい、描いたのがレーピンですよね?」「そうです」それが一番上の写真の男性の肖像画。ロシア語で画家の名前を追うのが精いっぱい。しかも、そのときはできたのに、いま読み返そうとするとすっかりロシア語の文字を忘れてしまって読み返す気力もない。ちゃんとメモしとけよ。メモ代わりに図録を買った(確か750ルーブルだったような)けれど、これまたロシア語オンリーの図録をきちんと見返す気力もなく、絵を眺めるだけに終わっている。語学って、継続しないとどうにもならないね。日々忘れるのみ。

まあ、しかし、誰が描いたとかなにを描いたとか、理解できた方が面白いけれど、その解読は今後の課題として、とりあえず極東美術館の絵画の宝を並べておこう。
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とりあえず、全面的な戦争は回避されたようだ。とはいえ、根本的にはなにも変わっていない。なにも解決していない。複雑になるばかりの世の中、世界情勢。でも、大国の都合に翻弄される小国や国もない人びと、そして政府や権力者の都合に翻弄される「名もなき」人びとの姿を思うと、ため息しか出てこない。自分にはなにができるのか。思い悩むばかりで、日々が過ぎゆく。

気が向いたとき、時間があるときに極東ロシアの旅のことを書き綴っていこうと思う。

極寒のアムール川を眺めたあと、ハバロフスクで一番楽しみにしていた極東美術館へ。

ロシアといえばエルミタージュ美術館、トレチャコフ美術館、ロシア美術館、プーシキン美術館などサンクトペテルブルグやモスクワに有名な美術館がそろっている。

残念ながら、学生時代にバックパックを背負って一番安いアエロフロート(パキスタン航空という選択肢もあったことを覚えている)のチケットで中東を往復していたころは、そんな美術館のことなんてアタマになかった。何度もモスクワを通り過ぎているのに、カギをかけられて閉じ込められるトランジットホテルの思い出しかない。または27時間を過ごした空港内と。

そんなわけで、上記の有名美術館には、どこへも行ったことがない。それらをめぐることを考えただけでワクワクするが、いまのところ予定にはない。いつか行くぞ。

エルミタージュ、トレチャコフ、ロシア美術館から寄贈された作品がこの極東美術館のコレクションの礎となっているという。いわゆる「超大作」はなくとも、「ここでしか観られない、出会えない」作品を楽しみに向かった。

入館料は350ルーブル。1ルーブルは1.7円くらい。ほかにカメラを持ち込む場合は200ルーブル。スマートフォンのカメラは無料。せっかくなのでカメラ代を払ってガシガシ撮影させてもらう。首から「カメラ許可」のネックストラップを下げる。

展示は、各国別、時代別に展示されていて初期ルネッサンスのイタリア絵画も並んでいる。もちろん部屋を進むとロシア美術もたっぷりと。
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とにかく楽しみにしていたのがイコン。もちろん教会で目にするイコンは格別だが、古い貴重なイコンなどは美術館に多く並ぶ。有名なイコン画家もアンドレイ・ルブリョフの名くらいしか知らないワタシは「もっとちゃんと勉強してくるべきだったなあ」と悔やむが、「トレチャコフやロシア美術館に行くまでには必ずや」と誓いを立てる。ロシア正教徒ではないし、クリスチャンですらないし、深い意味ではわからなくとも、イコンを眺めているだけでなんとも言えない静かなチカラに包まれる。来館者も少ないし、好きなように、好きなだけ眺める。
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この画家たちは、どんな思いで描いたのかな。このイコンが教会に飾られていたときは、人びとはどのような思いで祈っていたのかな。そんなことを考えながら、美術館のイコンを眺める。至福のとき。気が済むまで眺める。「予定のない」旅のいいところ。誰に気兼ねするでもなく、ひと気のない美術館を堪能する。たとえ「超大作」がなくとも、最高の美術館でのひととき。

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なんとなく精神的に痛めつけられたままドンヨリと新年を迎えている。昨年終盤のもろもろの疲れからあまり立ち直れていない。SNSやネットともすっかり距離を置いている。その方が心穏やかなので仕方がない。でも、先月後半以来すっかり反応が悪くなってしまったワタシに、期待通りの反応がないからなのかイブラヒムからときおり辛辣なひとことが届く。なんか、そういうことに疲れているんだとしみじみ自覚している。SNSで届くことなんて限りがある。ネット上のやり取りだけで届けられることなんて限りがある。ネットを離れた部分でも、きちんと付き合いを積み重ねていけなければ、なかなか難しいと思うし、やはりワタシは「旧い」人間なのか、ネットだけですべてを「成し遂げ」たり、「片付け」たりしてしまうということができないでいる。何十回も重ねるネット上のやり取りよりも、たった五分でも顔を合わせて向き合いたい。「便利なツール」は、あくまでその補助でいい。

さて、すっかり極東ロシアの旅が、忙しく日常を過ごしているあいだに忘却の彼方に消え去ろうとしてしまっている。まだ初日の夜景の写真しか紹介していないのに。今日は「新年初しごと」の日。せっかく原稿を書こうとPCを開いたので、そのまますっと消してしまわないでブログを更新しようじゃないかと決意する。決意しなきゃ書けないなんて。どうして昔はあんなに「ものを書く」「きちんと座って熟考する」時間なのか忍耐力なのか、そういうものがあったのだろう。本当に時間に追われてばかりいる。なのに結果的に大した時間の使い方をしていない。

また脱線。

ハバロフスク二日目は、朝からずっと雨だった。撮影のために両手を空けたいからと傘ではなくポンチョを用意していたのだが、ツメが甘いワタシは、そのポンチョが七分袖であることに着てみるまで気づいていなかった。結果、土砂降りの雨なので、ポンチョのなかでカメラバッグやカメラは雨から守れていても、両腕のダウンジャケットの袖が濡れまくり、寒いのなんの。ちゃんと山用のレインジャケットでも持参すべきだったと悔いるも、一日中雨。ロシアは建物のなかは完璧な暖房が効いているので、濡れる→乾く→濡れる→乾くの繰り返し。どこかへ入るたびにポンチョを脱いだり、出るたびに着たり、面倒くさいことこの上なし。

でも、雨に濡れながらもダラダラずっと街を歩いたおかげで、ロシアらしいデザインの遊具や壁画や面白いもの
が撮れる。それだけで幸せだ。寒い雨のなか座っていた黒猫にも出会う。でも寒いせいか、あんまり外を歩く猫にも出会わなかったなあ。 IMG_1774-20200103-140820


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ワタシは、外国に行くととにかく市場やスーパーやひとの生活が見える場所が好きなので、この日も大型ショッピングセンターのエヌ・カー・シティーに行ってダラダラ。地下の大きなスーパーマーケットでどうでもいいものばかりを買い込む。

夜はようやく「観光客」らしく?「ボルシチが食べたいー」という気持ちを胸にウクライナ料理店「カバチョーク」へ。説明不要な代表的な料理ボルシチ、ロシア風餃子とでもいうのかぺリメニ、キエフ風カツレツ(鶏肉をバターで包んで揚げたもの)を食す。余談だが、ぺリメニはアフガニスタンで食べたマントウとそっくりだった。考えてみれば、中央アジアとアフガニスタンの近さを思えば当然なんだけど。羊のミンチ肉を一口サイズの皮に包んで茹でてヨーグルトのようなソースをかけてあったアフガニスタンのマントウを思い出した。
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翌朝起きたらすっかり快晴。でも最低気温を見ると-9℃、風が強く体感温度は-20℃。覚悟して耳付きニット帽子、耳あて、タートルネックのヒートテック、フリース、ダウンベスト、ダウンインナージャケット、山用のダウンジャケット、ヒートテックレギンス、裏地がフリースの防寒パンツ、手袋二枚重ねといういで立ちで出かける。教会や美術館やお店に行くたびに何枚も脱いだり、着たり。コレ結構しんどかった。面倒くさくて。

アムール川の河畔に建つウスペンスキー教会。なぜか間違えて地下の地元の信者の方々のお祈りの場である小さな聖堂?の方に降りてしまい、聖職者の方がわざわざ電気をつけて内部を見やすいように計らってくださった。お礼の気持ちも込めて寄付代わりに教会グッズ(うわー、なんていう名前なんだろう。カレンダーとか小さなイコンなど)を購入。

大昔、エジプトで暮らしていたころマルギルギス(オールドカイロ)のコプト教会や博物館のイコンを眺めるのが大好きで、暇さえあれば行っていた。そんなことも思い出す。
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教会を辞して、アムール川へ。寒い。川から吹き上げてくる風が冷たい。まだ完全には凍結しておらず、氷が流れている。広大、雄大。でも寒い。こんなの「まだまだだよ」と地元のひとには笑われるだろうけど。
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多分、またつづく。。。

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