約半日かかって、次の写真展示のためのキャプションを書いていた。「キャプションは貼って掲出ではなく、紙をお持ちいただいたらどうですか?」とご提案をいただき、ちょうどミニコミづくりを懐かしんでいたタイミングだったので、「パレスチナ料理のレシピ入れたい(料理ベタなくせに)、キャプションはミニコラムにしたい」などと妄想が広がってしまった。
この妄想の楽しさを含めて、久しぶりに「目標」をいただいたように思う。某誌での連載も、次の仕事の予定も、なにもかもが終わってしまった、尽きてしまった。次の取材に行けるわけでもない。日々の目標がみつけられないって本当につらい。「ご飯が食べられて、屋根壁のある家で眠れて、辛いなんて言ってんじゃねーよ」と自分を叱りたくなるけれど、やっぱり心が空洞な時期が長すぎる。
そんななかで、現在、クルドのおかあさんのオヤを取り扱っていただいている古書ほうろうさんから、「オヤを扱うきっかけとなった高橋美香とは何者ぞ、ということをあわせて紹介しよう」というご提案をいただいたのだった。
そもそも4月にネット販売をしていただいたときに、拙著『パレスチナのちいさないとなみ』『パレスチナ・そこにある日常』も販売し、ワタシ本人のこともご紹介くださったのだった。
それが、どれほど嬉しかったかということは、とてもひとことでは表せない。
ときどき、まるで「単なるオヤの運び屋のよう」に扱われていると感じることがある。もちろん、それもパレスチナやアフガニスタンやそもそもワタシ本人に興味がなければ仕方がないことだし、「オヤが売れたんだから、それでいいか」と自分に言い聞かせる。「おまえの話はどうでもいい」と(言われないまでも)1ミリも興味を示されなければ、なんとなく「自尊心」はズタズタになり心は傷つけられる。情けないけれど、そんな経験の積み重ねが苦痛で、もはや、そんなとき、あえて自分からは自分の話はしない。こんなとき、自分はトコトンこういう活動に向いてない人間だなと思う。自分自身の売り込み、営業が致命的にできない。積極的になれない。どうしようもないね。こんなことでは、本が読まれないことも、活動が広がらないことも当たり前だ。でも、これが自分なのだから仕方がない。いたらなさも、情けなさも、自分が抱いて生きていくしかない。
今回、オヤを店頭で再び扱ってくださることが決まったとき、写真の展示と本の紹介販売のお話もいただいた。本当に嬉しかった。うまく言えないけれど、きちんとワタシまるごとに向き合ってもらえているようで。ひとりの人間として、大切にしてもらえているようで。この一年近く、そういうことを実感できた機会は、ほとんどなかったから。
『パレスチナのちいさないとなみ』では、パレスチナで生きている人びとの仕事と尊厳について書いた。仕事がある、自分にも社会の一員として意味がある、そういうことを、仕事をとおして感じる機会が、自分自身になくなっていたのだと気づかされる。
今度始まる展示(年明けの予定)では、一緒に、パレスチナの女性が手刺繍したクラフトも残り僅かだが、置いてもらう。自身の子どもを白血病で喪い、莫大な治療費の借金が残り、日々の生活もままならなかった友人が、「唯一自分にできること」として刺繍をしてわずかな手間賃を稼いでいた。泣きながら手を動かしていた。その手間賃があまりに少額で、彼女が人間としての尊厳を保つのには、もっときちんと仕事に見合った金額がもたらされるべきだと感じた。それが、彼女から刺繍のクラフトを買いあげた最初のきっかけだった。もちろん、自分が頻繁に現地に行けるわけでもないし、自分の仕事=商売としてできるわけでもないし、継続的な仕事として用意してあげられなかったが、少なくとも、それで得た元手で自分で製作と販売という活動を始めるきっかけくらいにはなったようだ。なによりも、その提案をしたときに、彼女が見せた久しぶりの笑顔がいまでも心に残る。
「自分にできること」について考える。いま自分にできることは、とにかく撮ってきたもの、聞いてきたこと、自分の体験、そういうことを、少しでもいいからお蔵入りさせず、どんな方法でも伝える努力をすることなのだろう。たとえ、ほとんど誰も見てくれていなくても。ひとりに伝わるなら、それでいいじゃん。たったひとりなのかもしれない。でも、誰にも伝わらないままよりは、きっといい。
そう思いながら、展示予定の写真のキャプションを書いていると、久しぶりに、伝えたいことがあふれてきて、とても豊かな時間をもらえたのでした。
展示の詳細は、決まり次第、お知らせします。
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▼現在、台東区池之端の「古書ほうろう」さんにて、いつも大人気のクルドのおかあさんのオヤをお取り扱いいただいております。
その経緯なども、しっかりとご紹介くださっているので、ぜひお店のHPをご覧ください。
https://horo.bz/event/kurds-oya202012/
クリスマスプレゼントなどに、ぜひとも。現在拙宅には在庫はございません。すべて古書ほうろうさんにお預けしてお取り扱いいただいているので、お近くの方、また近辺にお越しの方は、お店に足をお運びただければ幸いです。
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現在発売中の『時空旅人別冊 BANKSYバンクシー覆面アーティストの謎』に「バンクシーがパレスチナに残したもの」と題されたフォトエッセイを寄稿しました。
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2019年、フェアトレードでパレスチナからオリーブオイルやザアタル、石鹸、刺繍製品を輸入販売するパレスチナ・オリーブ代表の皆川万葉さんと共著『パレスチナのちいさないとなみ』(かもがわ出版)を出版しました。パレスチナの「おしごと」をテーマにした一冊です。お近くの書店でお取り寄せが可能です。
パレスチナ・オリーブのサイト
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★『パレスチナのちいさないとなみ』
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★『それでもパレスチナに木を植える』(未來社)
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★『パレスチナ・そこにある日常』(未来社)
版元の未來社のページ
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★写真集『ボクラ・明日、パレスチナで』(ビーナイス)
明日
版元ビーナイスのページ
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