世界の笑顔に出会いたい

写真家・高橋美香のブログ。 公園にいたノラ猫のシロと暮らす。 カメラを片手に世界を歩き、人びとの「いとなみ」を撮影。 著作に『パレスチナ・そこにある日常』『それでもパレスチナに木を植える』(未來社)『パレスチナのちいさないとなみ』(共著)『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』(かもがわ出版) 写真集に『Bokra 明日、パレスチナで』(ビーナイス)

2012年12月

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去年のちょうど今頃、ジェニン難民キャンプで過ごしていた。年越しをマハの実家のベザリヤで迎えようと話して、カマールとマハとエリヤと泊まりに行ったんだ。

パレスチナで年越しをするのは二度目。前回はエルサレムで上がった花火を眺めながら、2010年を迎えた。2011年の幕開けは最悪で、その日、ビリン村でジャワーヒルが亡くなった。前日のガス中毒で。そして2012年、その一日目は、普段と何も変わることのない一日だった。みんなで朝ごはんを食べて、マハの実家に行って、たくさんの人に囲まれながらお茶を飲み、ジェニン難民キャンプに帰った。

あれから一年かあ。

今年は、かなり私生活も精神的にも揺れた年だった。悪い時に悪いことは重なるもので、どうにも身動きが取れない時期に、カルミーの命が失われた。「もう苦しまなくていい、天国はカルミーにとって心地よいところなんだ、逝かないでほしいと思うのは遺されるもののエゴなんだ…」そんな風に、自分を納得させようと努めた。

いいこともあった。大間と祝島という、対照的な「原発と闘う」地で、たくさんの人に出会えた。そして、なんといっても、ビリン村が舞台の映画「壊された5つのカメラ」が日本で公開された。夢みたいだ。ビリンの闘いを多くの人に知ってもらえた。そして、監督のイマードは日本にやってきた。

宮古に行きたいな。もちろんパレスチナにも。沖縄の実さんにも会いに行きたい。毎日のようにそんなことを考えている。

来年はいい年になりますように。当たり前に働く普通の人々が普通に暮らしていける、そんな世の中でありますように。

今年一年、ありがとうございました。みなさま、よいお年を。

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映画「壊された5つのカメラ」をみていると、スクリーンに「兄弟」たちや「家族」やごく親しい友人たちがいるのが不思議な気持ちになるときがある。たくさん印象深い場面も、胸が詰まる場面もあるが、一番好きな場面は、アディーブとハムディが壁の向こうにみんなでつくった小屋のなかで寝そべって壁について話している場面。その場面でカメラが右から順番にそこに座るみんなを映していく。その最後に何も言わずに寝そべって煙草を吸っているパパがじーっとこっち(カメラ)をみる場面。そのパパの顔が最高なのだ。

ビリン村で、好きな友達はたくさんいる。ハムディとハイサムは特別にしても、他にも大切な友達がたくさんいる。でも、とびきり特別で他の誰よりも信頼しているのは、このパパ、ファトヒ・アブーラハマだ。パパとママ(バスマ)は本当に特別なひと。本当の娘のように、いつも大切にしてくれる。

ここ数年、ビリンを去る日はいつも去りがたく、最後にパパが淹れてくれたお茶を飲み、出かけるのが常だった。今年は、いつもどおりパパが淹れてくれたお茶を飲んだ後、大きなバックパックを背負ってパパとママに別れを告げようとすると、パパがひとこと「荷物をこっちへ。送っていくよ」と。

パパは普段口数の多い人じゃない。それどころか、必要のない言葉は何も発しない。パパの実の娘である妹たちは「パパとじっくり話をすることなんてほとんどない。いつもひとことふたこと用事を言いつけられるだけで、パパに笑いかけられることもない。なのに、パパはミカにはたくさん話しかけるし、ミカとは楽しそうに笑うわよね」とあきれる。

「パパ、最後にハイサムの家に挨拶に寄っていくからここでいいよ」と言うが、「じゃあ、ハイサムの家まで送る」とパパは荷物を背中に背負う。ハイサムの家まで、特に何かを話すわけでもなく、トボトボと歩いていく。

ハイサムの家に到着して、玄関が開くと、ハイサムがパパの姿をみつけて驚く。「アブーハミース(パパの通称)どうなさったんですか?まあ、お入りになってお茶でも飲んで行って下さい」「いや、ここまでミカの荷物を持ってきただけだから」と固辞するパパに、「まあ、お茶飲んで行こうよ」とパパを誘い、三人でお茶を飲む。

パパは、ハイサムの家のサロン(居間)に家具らしい家具もないことに驚く。ハイサムの家には初めて入ったそうだ。カルミーの治療のために、ハイサムは家の内装の仕上げも家具も整えられないままだ。しばらく三人でお茶を飲んで、いよいよ出発の時間になった。

バス停に向かうためにハイサムの家を出ようとすると、ハイサムがパパに向かって「荷物も重いので俺が荷物を持って送っていきます」というと「いや、大丈夫。ミカを見送るのが親の務めだから」と重いバックパックを背負う。「じゃあ、よろしくお願いします」と折れるハイサム。ハイサムとハグをして別れた。

そして、バス停でいよいよバスがやってきた。パパは煙草を吸いながら「また帰ってこい」とひとこと。うなずいてバスに乗った。どんどん遠ざかるパパの姿。悲しくてさみしくてたまらないけれど、同時に、このビリン村に帰る場所を用意してくれている「家族」の温かさを思い、その幸運に感謝する。

それから約一年近くが経とうとしている。「壊された5つのカメラ」の上映でパパが出てくるシーンを観るたびに、パパに会いたくて、ママに会いたくてギューっと胸がしめつけられる。あの家に帰りたい。一緒にたき火にあたりながら、他愛もない話をしながら過ごす夜が恋しい。

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日々、どんどん入植地建設認可や着工のニュースが入ってくる。

「入植地」とただ言葉で聞くとピンとこないかもしれないけれど、そのためにどんどん多くの人が家を奪われ、土地を奪われている。そうして造った入植地に、税金や住宅ローンなどを優遇してイスラエル人を住まわせる。もちろん、土地や家を奪われるのはパレスチナ人。

ベツレヘムに近いアルワラジャ村にも、入植地と分離壁が造られている。

赤い屋根のオマルさんの家の周りは、すべての家族が立ち退かされた。オマルさんはどんな脅しにも甘言にも屈しなかった。「なんで俺たちが出て行かなきゃいけない?ずっと先祖代々受け継いできた土地なのに」とオマルさん。

ただ、オマルさんの家はフェンスで囲まれ、すぐ裏手にある入植地には出られないようにされ、目の前には分離壁が造られ、壁によって分断される村との行き来のため、トンネルが掘られている。

更地にされ、追い出された家族の大半は、ヨルダンに引っ越していったという。それこそが、イスラエルの狙い。以前から「ほかにアラブの国はいくらでもある。パレスチナ人はそれらのアラブの国々行けばいい」と公言している。

どれだけ批判されても、イスラエルにとっては痛くもかゆくもない。別に経済制裁までをともなう本気の非難ではないから。パレスチナ人を一人でも多く追い出すために、日々政府としての「努力」が続けられている。

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パレスチナの日常とそこに生きる人々の姿をテーマに、ガザへの攻撃があったあの日に、亡くなった人々への追悼の意もこめてスライドトークと上映会をおこないます。

日時:12月27日(木) 19時半~21時半

場所:ふろむ・あーす&Cafe OHANA
世田谷区三軒茶屋1-32-6-1階
三軒茶屋駅より徒歩3分

電話:03-5433-8787

参加費:投げ銭(カンパ)制、要オーダー

http://www.cafe-ohana.com

分離壁と闘うビリン村で撮影されたドキュメンタリー「Najah」(ハイサム・カティーブ監督)を上映予定。

皆様のお越しをお待ちしております。

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10月以来、宮古に足を運ぶことができていない。二か月に一度の宮古行、行けなかったのは昨年パレスチナに行っていたときくらいだ。日本にいる限り、二か月に一度のペースを守ってきたのに、行けそうにない。宮古の冬は寒い。この冬もまた、あのプレハブの仮設住宅で過ごしていらっしゃる皆さんのことを思うと、気持ちが焦る。政治は何をやっているんだ。

自分の身内が、もう二年近くも、体育館やプレハブの仮設住宅に押し込まれたままだと考えれば、どんな気持ちだろう?辛くて、いたたまれなくて、たまらないはず。仮設住宅で、これからのことをうかがうたびに、皆さんのお顔から笑みが消えて「どうなるんだろうねえ」というため息に変わる。そのたびに、また聞いちゃいけないことを聞いた、辛い現実をまた突きつけてしまったという、後悔に襲われる。

いつもお邪魔している、この仮設住宅でも、「今日はひゅうずをつくったから食べていきな」「おやつを持って帰りなさい」「コーヒーを飲んでいきなさい」と、いつもいつも優しさばかりをもらっている。集会所にみんなで集まって、声を掛け合って、励まし合って、なんとかやっていると、皆さんは声をそろえておっしゃる。

被災地も被災された方々も、政治ゲームのコマじゃない。本当にその立場に立って、一刻も早く、先の見通しをつけてほしい。先の見えないことほど辛いことはない。

被災地の年越しは、もう二度目になる。

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パレスチナの日常とそこに生きる人々の姿をテーマに、ガザへの攻撃があったあの日に、亡くなった人々への追悼の意もこめてスライドトークと上映会をおこないます。

日時:12月27日(木) 19時半~21時半

場所:ふろむ・あーす&Cafe OHANA
世田谷区三軒茶屋1-32-6-1階
三軒茶屋駅より徒歩3分

電話:03-5433-8787

参加費:投げ銭(カンパ)制、要オーダー

http://www.cafe-ohana.com

分離壁と闘うビリン村で撮影されたドキュメンタリー「Najah」(ハイサム・カティーブ監督)を上映予定。

皆様のお越しをお待ちしております。

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