
カルミーと約束したたくさんのことが果たせず、悔いばかりが残ったまま、カルミーは逝ってしまった。
その後の一年間は、ハイサムやハウラに電話をかけて、何を言えばいいのか思いつかず、意気地のないワタシは、どんどん彼らに電話をかけられなくなっていった。
なんて薄情な友達なんだろう、そう自分を責める気持ちに襲われるけれど、カルミーを亡くした彼らに向き合うのが怖かった。
でも、また季節はひとめぐりして、カルミーとの小さな約束が果たせなかった秋がまたやって来て、そのことを強く意識しながら、ビリンに辿り着いた。
予想に反して、ワタシを迎えてくれたハイサムもハウラも、満面の笑みだった。そこにカルミーがいないことが信じられないくらいの。まるでカルミーは外に遊びに行っているか、隣の部屋で眠っているのか…というくらいに。
でも、それは長くは続かなかった。ひとしきり話をして、カルミーのお墓のことをたずねると、やはりハウラは泣き出した。「毎朝、誰も起きていない早朝にひとりでなら行けるけど、ごめんなさい、いまは一緒には行けない」と泣いた。
夜中、ハイサムがカルミーのお墓に連れて行ってくれた。「カルミー、天国はどう?遅くなってごめんね。約束を守れなくてごめんね」と、お墓のそばの「カルミーの木」に水をあげた。
「ミカ、カルミーはここにはいないよ。カルミーの体はここにあるけれど、彼自身はここにはいない」と、ハイサムは空を見上げた。
「毎日、毎日泣き続けているハウラをみるのは辛い。ハウラは『もう泣くのはやめてくれ』と頼む俺に向かって、『あなたはなんで悲しくないの?なんで平気な顔していられるの?』となじるけれど、俺が泣きっぱなしで、家のなかには笑いも何もなくて、カルミーのことばかり話していたら、ムハンマドはどうなる?家族はどうなる?俺は、冷血だと言われようともムハンマドの人生も、家族も壊したくないんだ。守りたいんだ」
「悲しくないわけがないよ。カルミーは俺たちのすべてだった。ムハンマドがそうであるように。でも、残された俺たちの人生は続くんだ。だから、誰にも見られないように、夜中、ここにカルミーを訪ねてきて、ひとりで大泣きすることもある。そんな姿、誰にも見せられないけど…」とハイサムは寂しそうに無理して笑った。
朝、カルミーがワタシを起こしに来ない。朝食のアボカドをカルミーと取り合いしながら食べられない。「ミタ(カルミーはミカと言えなかった)、ヌーヌー(おしっこ手伝って)」と呼ばれない。チョコレートもチップスも四人分しかムハンマドが買って来ない。。。日常のありとあらゆる場面で、カルミーがいないことに呆然としてしまう。
そして泣きながらチョコレートをかじる。泣きながらカルミーが好きだったトムとジェリーを観る。泣きながらアボカドを食べる。。。いつもハイサムに怒られる。
「たくさんの外国人がうちに来たけれど、カルミーが一番深く愛していたのはミカだった。カルミーは人見知りが激しいから、外国人がうちに来るとおびえてしまうんだけど、そんなとき、『この人はミカの友達だよ』と言うと、カルミーは彼らと仲良くなれたんだ。病院のベッドでも、ずっとミカの名前を呼んでいたよ。いつ来るのかってずっと気にしてた。ミカにとってカルミーが特別だったように、カルミーにとってもミカは特別な存在だった。カルミーを愛してくれて、カルミーと一番の友達でいてくれてありがとう」
カルミーが亡くなった日、ものすごく空が真っ青だったことを覚えている。泣きはらした目に太陽の光がまぶしかったことも。そんな日に、ウソの笑顔をつくって仕事をしたことも。
カルミーのお墓の小ささが、ひときわ辛かった。
*******************************************
写真展「オリーブの涙・パレスチナの日々」
9月から11月に撮影の新作写真展
日時:1月29日(水)~2月3日(月) 12時~19時(最終日17時まで)
場所:吉祥寺 ビタミンTee(吉祥寺北町1-2-9)
成蹊東門通り 四軒寺交差点すぐそば 吉祥寺駅より徒歩10分
電話:0422-27-1750
入場無料
http://vitamin-tee.com/








