
9月には、次男ムハンマドの親友で、四兄弟すべてにとって幼なじみだったマジドがイスラエル軍兵士に撃ち殺された。
10月、2002年にキャンプへの軍事侵攻があったとき連行されて拷問をうけて、ずっと体調が悪く、晩年は自分の足で立つことも、しゃべることもできなかった一家の「父ちゃん」イマードが亡くなった。
長男のカマールは、仕事から帰ってきて、ひとり部屋に閉じこもって大音量で「抵抗歌」を聞くことが多くなった。武装組織のメンバーが覆面をかぶって訓練しているような映像のうえに抵抗の歌がかぶせられているそんな映像。
特に難民キャンプでは武装抵抗組織との距離が近いというのが実感だ。母親のマハは、そんなカマールの様子を気にしつつ「カマールは兄弟のなかでも一番繊細で感受性の強い優しい子だから…」と、心配しているようだった。友達や兄弟を喪った悲しみや怒りのなかにいる人間が、組織に誘われることが多いとも聞いた。
次男のムハンマドも、その顔から笑顔が消えた。幼なじみの親友を殺されたのだから、当たり前だ。その悲しみも癒えないうちに、父親まで亡くした。朝早くから毎日仕事に行くムハンマド。ある日「もう、仕事も何もかも、すべてに疲れた」と吐き捨てた。
四男のサリームからも、無邪気さが少し消えていた。二年ぶりに会った彼はもう19歳。もう「少年時代」は終わった。外に働きに出るマハの代わりに家に残って父親の面倒を見ることが多かったサリームも、建設作業や電気工事の仕事に出るようになっていた。
二年前とあまり変わらず、一番元気だったのは、三男のジュジュだけかもしれない。少なくとも表面的には。彼は婚約を果たした。婚約者のもとに嬉しそうに通うジュジュだけが、明るい顔をしていた。
去年の夏、長男のカマールには、待望の子どもが生まれていた。病気で寝たきりだった最晩年の「父ちゃん」イマードも、孫の誕生に嬉しそうな顔をしていたそうだ。
そして、その赤ちゃんは、祖父の名前をそのままもらってイマードと名付けられた。
ワタシがアワード家を訪ねたころ、この赤ちゃんイマードの存在だけが一家の希望であり、みんなに笑顔を与えていた。仕事で疲れて帰ってきたムハンマドもサリームも、里帰りを果たしたジュジュも、もちろんイマードの父親であるカマールも、一家の「母ちゃん」マハも、みんながイマードと向き合うときには笑顔が戻った。
ワタシも一家のなかで居候生活をするうちに、母ちゃん、ばあちゃん、その二人の手がふさがっていれば「ミカおばちゃん」という順番で、子守り役がまわってきた。イマードを抱っこしてキャンプのなかのお店に買い物に行ったり、イマードを寝かしつけたり、水を飲ませたり、あやしたり。こんなに子どもの面倒を見たのは生まれて初めての経験だった。
だんだん、イマードが「他人の子」と思えないくらいになった。イマードが笑うと心が躍った。ビリンのアブーラハマ家のヤジードやカルミーに対して抱いていた思いのように、本当にイマードを愛しく思った。
きっと、今日も、いまこの瞬間も、辛いことが続いたアワード家でみんなの心を和ませ、みんなを笑わせ、希望を与えているのはイマードの存在、イマードの日々の成長なんだろうと思う。
イマードは、故郷を失った難民4世。どんな子に成長するのだろうね。
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下記の通り、新作の写真展を開催いたします。
日時:2014年1月29日(水)~2月3日(月)
12時~19時(最終日は17時まで)
場所:吉祥寺 ビタミンTee
※東中野から移転しているのでご注意を
武蔵野市吉祥寺北町1-2-9(吉祥寺駅より徒歩10分)
問い合わせ:0422-27-1750
入場無料
http://www.vitamin-tee.com
みなさまのお越しをお待ちしております
なお、転載、シェアなど大歓迎、いつもありがとうございます
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なお会期中、2月1日(土)19時からは「喜多見と狛江の小さな映画祭+α」会場にて
分離壁を越えてイスラエル領に働きに行くパレスチナ人労働者のドキュメンタリー映画
の上映会をおこないます
・「Nine to Five」」(ダニエル・ガル監督・イスラエル・2009年)上映
・映画の背景を解説するスライドトーク
・イスラエルの核保有を暴露した技術者モルデハイ・バヌヌ氏のメッセージを考える
場所:M.A.P.
狛江市岩戸北4-10-7 島田歯科2階
小田急線喜多見駅より徒歩5分
入場料:1200円
問い合わせ:03-3489-2246
twitter:@KitamiFilmfes



