世界の笑顔に出会いたい

写真家・高橋美香のブログ。 公園にいたノラ猫のシロと暮らす。 カメラを片手に世界を歩き、人びとの「いとなみ」を撮影。 著作に『パレスチナ・そこにある日常』『それでもパレスチナに木を植える』(未來社)『パレスチナのちいさないとなみ』(共著)『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』(かもがわ出版) 写真集に『Bokra 明日、パレスチナで』(ビーナイス)

2014年06月

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某国某地から帰ってきて以来、すっかりアタマも心も空っぽで、逆ホームシックに打ちひしがれていた。

やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、心をこめては、何も手につかない。必然的に、空っぽのまま、生きていくための必要最低限のことをこなす日々。

夢見るのは、某国某地での隠遁生活。何もかもを投げ捨てて、某地の一員となり、みんなに囲まれて、畑を耕して、牛を追って、乳搾りをして、山菜をとって暮らすことを夢想し続けた。

でも、「入植者誘拐事件」とその「捜索」と称したパレスチナへの侵攻作戦によって、ワタシはいつの間にか元の場所へ引き戻されていた。

日々増えていく「逮捕者」と犠牲者。ジェニン難民キャンプの友人までもが「逮捕」された。

それでもワタシは最初、なんだかすごく遠くの出来事のように(パレスチナは普段ワタシにとって「遠く」ないので)感じた。

入植者の青年三人が神学校の帰りに、入植地へとヒッチハイクをしようとして誘拐された。誘拐されたとみられるのは、パレスチナ人が自由に立ち入ることの出来ないC地区。ダウラトアルイスラームという組織が犯行声明を出した。

そんな情報をボーっと眺めていた。

しかし、すぐに、それは「捜索」という名の大弾圧に変わり、事件の舞台となった場所の近郊のヘブロンだけでなく、ラマッラー、ナーブルス、ジェニン、カランディア…などなど、多くの場所で、嫌疑もあやふやなまま多くの人が「逮捕」され、それに抗議する人々が各地で撃たれ、殺され始めた。

パレスチナ人の友達から、亡くなった方々の遺体の写真、その遺体にとりすがって泣くご遺族の写真が日々送られてきた。ラマッラーの町中、ナーブルスの町中、よく知る場所が「戦場」と化している。

カランディアで射殺された青年が遺した言葉。「僕はイスラエル軍に対する抗議行動に参加する。イスラエルのやり方にはもう耐えられない。占領がなくなる希望もない。投石する、死を覚悟で」。この遺言を読んだとき、もしかすると「彼」だったかもしれない多くの友の顔が浮かんできて、悔しくて泣いた。

ようやく、現実に引き戻された。

ジェニン難民キャンプの「弟」は、また親しい友人を連れ去られた。ワタシにとっても親しいヤツ。自分で台本を書いて、自分で演出をして、真剣に演劇に取り組んでいた。

「弟」は、親友の喪失に苦しみ続けている。

「マジドを喪ってから、もう一年近くの月日が流れるのに、俺のなかでは、あの日のまま、ときが止まっているみたいだ。現実と向き合って、現実的に生きているのに、ふとした場面で立ち止まって、マジドと過ごした日々を思い出すと、もうダメなんだ…」

「ワタシがしてあげられることは何もないけど、でもワタシも、マジドのことを絶対に忘れないよ。それだけは誓う」

と、返す。

毎朝、「弟」を迎えに来てくれていたマジド。狭い難民キャンプの小さな家では、扉を開けると、そこは玄関であり、広間であり、ワタシたち「一家」が雑魚寝をする寝室でもある。すべてを兼用するその部屋を見渡しながら「おい、ムハンマド起きろよ。エリヤ、起きて学校行けよ。ミカおはよう。今日も髪の毛大爆発」と笑ってたマジド。

ひとり、ふたりでは、決してこの日本ではニュースにもならない、その死を、こんなにも悲しみ、苦しみ、思い続ける遺族や友達の姿があるってことも、日本でニュースにならなかったその死者にも名前があり、家族があり、友があることを、ワタシは決して忘れない。

関西で始まる彫刻家の金城実さんの作品展「なまぬるい奴は鬼でも喰わない」は明日から。

6月22日~29日 11~18時
京都 めなみ
京都市北区小山花ノ木町15
電話0754934353
※22日17時からはオープニング「金城実と飲み語る」

7月8~13日 11~18時
大阪 速成寺
大阪市生野区勝山北4ー8ー7
電話0667125720
※12日16時~
 13日14時~
映画「獅子たちの抵抗」監督 西山正啓
金城実&監督トーク

7月15~21日 10~17時半
班家食工房 アトリエ
大阪市生野区桃谷4ー5ー15
電話0667181100

7月25~27日 9時半~21時半
神戸学生青年センター
神戸市灘区山田町3ー1ー1
電話0788512760
※26日18時~
トークイベント「金城実 大いに語る」

関西近郊の方、是非とも足をお運びください。

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この春「山の学校」を卒業したマリナが高校に進学できたのかどうか、ずっと気になっていた。

というのも、彼女の三人の姉、アズィザ、ザルミナ、アズィマは高校へは行かなかったからだ。

三人の姉と比べて、ずっと成績の良かったマリナはどうするのか?昨年、中学三年生になったマリナにそのことをたずねてみると、横にいる父親を意識しながら「分からない。カーブルにお嫁に行っているかも」と冗談とも本気とも判断の付かないような言葉を発した。実際に、長女のアズィザは中学を卒業することなく嫁入りした。

マリナの家から、下の町の高校までは歩いて一時間半以上。父親のホラム先生は、職業柄教育の重要さは理解しているけれど、つい数年前まで、女子は学校に行けたとしても小学校で終えることも稀ではなかった。中学を終える、ましてや下の町の高校に行くなんて、数年前までは考えられないことだった。

しかし、ここ数年、少しずつ高校に進学する女子が増えてきた。親の理解が着実に広がってきた。

11人の子どもをもつホラム先生は、まったく余裕のない生活のなかで、娘の進学については悩んだだろうと思う。授業料は無料とはいえ、学用品などの費用が掛かる。それでも、マリナの同級生のムシュゴーンとタマンナが一緒に高校へ進学すること、家の手伝いは姉のザルミナがしっかりとになっていること、ずっと成績が良かったことから、結局ホラム先生はマリナの高校進学を許した。

ある朝、下の町、居候先のヤシン家からアクバルの運転する車で「山の学校」へとのぼっているとき、通学中のマリナとすれ違ったあの日の朝の感動は言葉に言い表わせない。「ああ、マリナ、高校へ行けたんだね、よかったね」と、涙が出そうになった。

そして数日後、ホラム先生が「マリナとアズィマがミカを招待したいと言っているからご飯を食べにおいで」とお誘いを受けた。

再会したマリナは、相変わらずの利発さで「高校を卒業したら弁護士になりたい」と言った。

もし大学に合格した場合、大学の授業料は無料だが、生活費、寮費などにかかるお金の試算はいまのところ、約60万円ほど。

なんとか用意してあげたいなと思う。

それがいまのワタシの一番の夢かもしれない。

ご賛同のうえ、ご協力いただける方は、mikairv@gmail.com にご一報ください。

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