
あのころ、ワタシはビリン村をいまよりずっとキラキラした目でみつめていた。自分が若かったせいもあるし、村の闘いが盛り上がっていた時期でもあるし、ワタシはビリン村で「水をえた魚」のように、居候生活をしながらその日常を切り取っていた。
いま、『パレスチナ・そこにある日常』を読み返すと、ナイーブ(英語本来の意味で)で、青臭くて、それでもあんなに本気で村の闘いのためになにかをしたいと思っていて、居候先の家族を含めた周囲のひとたちのことが好きで好きでたまらなくて(キライなひともいるし、諍いもたくさんあったけれど)、我ながら「まぶしい」思いがする。
二作目の『それでもパレスチナに木を植える』でも書いたこの村の分離壁反対運動をつぶすための分断工作、それによる疑心暗鬼、村人同士の主導権争い、立ちはだかる大きな壁、拡大する一方の入植地、死傷者の増大、逮捕、投獄によって人生を狂わされること、様々な要素が絡み合い、ますます村人同士の人間関係はズタズタになり、村の運動そのものが昔の勢いを失っている。
ハムディもその影響もあり、一時はパレスチナを離れた。辛い辛い涙の別れにも立ち会った。ママはその前後に悲しみが大きすぎて心のバランスと体調を崩した。そして、ハムディが意を決してふたたびパレスチナに戻ってきたときには、ママの目はハムディの姿をとらえることができなかった。
体調が悪く、もう何年も人工透析を受けながら暮らしているママ。「このまま生きていても息子たちの迷惑になるだけ。神様はなぜ私をお連れくださらないのか」と泣くばかりのママ。透析を受けた日は体力を使い果たし、その翌日はほんのわずかに体調がマシで、三日目にはまた体中の血の流れが滞り痛む体に泣くばかり、四日目また透析を受けにラマッラーの病院へ行き、同じサイクルを繰り返す。
そんなママも、息子や娘、孫であるその子どもたちが来るときだけは笑顔が戻ることがある。五人の男兄弟のなかで一番深く分離壁反対運動にコミットし続けるハムディのことを、ママは一番心配している。ハムディは、ワタシの前でよくわざとママに甘えるふりをする。ママとハムディは、阿吽の呼吸で、甘え、甘やかす、ふりをする。一種のじゃれあい。
年月が容赦なく流れていく。変わってしまったことも数え切れないほどあった。ママとハムディとワタシの関係も、二作の著作を書いたときとは違う。あのころのように、パレスチナの時間の大半をママとハムディとあの家で過ごすことはなくなってしまった。けれど、もっと深く、もっと悲しみをともなった、とはいえ、もっと愛情深いものに変わっているように思う。
いつまでこんなふたりの写真を撮り続けられるのだろうと思う。そう考えると、悲しみが心に宿り、痛みが宿る。人生にはどれだけ願っても叶わないことがある。それがわかっていても、いつまでもふたりの姿を撮り続けたいと思う。ひととき、ひとときを大切にしなくてはならない。ともに過ごせる時間を大切にしなければならない。
それは、ママとハムディに限らず、目の前にいるどんな大切なひとでも同じなのだと。
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さいたま市大古里公民館で開催される「第30回平和のための三室戦争展」にてパレスチナのお話をします。
8月26日(日)14時半からスライドトーク(約70分間)
☆交通機関
路線バス (浦31系統)JR京浜東北線北浦和駅東口からさいたま市立病院行き「北宿」下車徒歩5分(東武バス)
JR京浜東北線浦和駅西口から市立病院行き「北宿」下車徒歩5分(東武バス)
(浦和08系統)JR京浜東北線浦和駅西口から南台行「三室」下車徒歩5分(国際興業バス)
☆所在地
住 所 〒336-0911 さいたま市緑区三室2614-2
電話番号 048-810-4155
FAX 番号 048-810-4156
駐車場 有り・15台(但し公民館施設利用者が多い場合は満車になり駐車できないことがあります)
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『それでもパレスチナに木を植える』(未來社)
店頭にない場合は、書店でご注文いただければ幸いです。
http://www.miraisha.co.jp/np/isbn/9784624411022
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また、引き続き、下記の二冊の本のご注文もお待ちしております。
『パレスチナ・そこにある日常』(未来社) 重版が決定しました。
版元の未來社のページ
http://www.miraisha.co.jp/np/isbn/9784624410919
アマゾン
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写真集『ボクラ・明日、パレスチナで』(ビーナイス)
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版元ビーナイスのページ
http://benice.co.jp/index.html
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mikairv★gmail.com(★を@に)までご一報ください。
ただし、この場合恐れ入りますが、本代と送料実費を頂戴します。
写真集『ボクラ・明日、パレスチナで』に収められた写真のカード、Tシャツ、トートバッグをこちらからお求めになれます。
ビタミンTeeのページ
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