
昨日はパレスチナの「土地の日」だった。パレスチナの現在進行形の苦難が語られるとき、空爆や封鎖ばかりが語られる。軍事攻撃や空爆、封鎖が言語道断の非道であることは疑いなく、それに対する抗議の声をあげ続けなければならない、それはそれとして、現在イスラエルという国に存在するイスラエル国籍やエルサレム居住権をもつ、イスラエルに組み込まれた人びとの苦難は忘れられがちであることは、「土地の日」だからこそ忘れたくない。いうまでもなく、「土地の日」はそんなイスラエル領内のパレスチナ人の村で起きた出来事がきっかけだ。
彼らの苦難はガザ地区や西岸地区のパレスチナ人の苦難にくらべて、目に「見えにくい」。そしてパレスチナ以外の場所で暮らす難民の苦難も。封鎖や空爆だけが「パレスチナ人」を苦しめているのではない。「分断して統治せよ」は過去の植民地支配に限らない。長年にわたる分断の苦しみを、イスラエル国内に組み込まれたパレスチナ人から感じることがある。彼らの苦難も続いている。多分、この話はまた今度。
難民キャンプの居候先の母ちゃんの息子カマール(長男)の息子(母ちゃんからすると孫)はイマードと名付けられた。若くして亡くなった母ちゃんの夫の名前を受け継ぐ。どうして祖父イマードが若くして亡くなったのか、母ちゃんはどんな苦労を重ねて子どもたちを育てながらここまで生きてきたのか、そのあたりのことは拙著『それでもパレスチナに木を植える』にたっぷり書いたのでここでは繰り返さない。
あの本の最後の方で、難民キャンプの一家の裏庭に木を植える場面がある。木を植える経緯はあの本のハイライトなので、まずはご一読を。その際カマールが「レモンの木も欲しい」とつぶやいた。そして兄弟は「鶏を飼いたい、鳥小屋が欲しい」と言ったのだった。詳細に関して重複する部分を、この場ではすべてすっ飛ばす。いまでも、あの本は、あれだけ苦しまなければ書けなかった、あのときだからこそ書けたものだと思っている。「難民」「過激なテロリスト」「ワタン(祖国・故郷)を守る英雄」という、イメージだけがひとり歩きする、その等身大の姿を近くにいてみつめることで、なんとかつかみたい、描きたいと思った。いまのワタシにはもう書けないだろうと思う。そのとき、そのときの「熱量」というものがあるから。
そう、そうして兄弟が望んだ家畜小屋、鳥小屋を裏庭に造ろうと試みて、弟たちの「銃を手に取った容疑」の嵐が一家に吹き荒れて、家畜小屋、鳥小屋を造るどころの話ではなくなって、最後、ワタシはその完成を見届けられないまま難民キャンプを後にしたのだった。
そして三年半ぶりの再訪で、長男カマールの不在と資金不足が重なり家畜小屋は建設途中でブロックが積み上げられたまま、鳥小屋は廃材でできあがっていて、鶏とアヒルが飼われていて、その世話をカマール不在のあいだ、母ちゃんと、カマールの弟のムハンマドがしていたのだった。
カマールの長男のイマード(孫)は、鳥を追いかけまわし、鳥に追いかけられ、裏庭で遊びながら成長していた。毎日卵を小屋に採りに行くのはイマードの役目だ。命がともにある暮らし、命から恵みを受ける暮らし、殺風景な難民キャンプの裏庭で、子どもたちがそんな風に命のぬくもりを身近に感じながら成長していることが嬉しかった。そんなきっかけをつくることができたことが、嬉しかった。
イマードは、親戚の家の屋上に立派な鳥小屋があると知り、ワタシの手を引っ張って連れて行きたがった。自分の家の廃材の鳥小屋よりもはるかに立派な鳥小屋。自分の家にはいない鳥を嬉しそうに眺め、追いかけた。
今度また訪ねるときには、どんな鳥が飼われているのだろうな?
もう6年近く前のことになりますが、あのとき難民キャンプにオリーブの木を植えて、レモンの木を植えて、家畜小屋・鳥小屋を造る計画にカンパをお寄せくださったみなさま、本当にありがとうございました。いつか、みなさまに実際にお訪ねいただきたいです。そんな日が来るといいなあ。
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2019年、フェアトレードでパレスチナからオリーブオイルやザアタル、石鹸、刺繍製品を輸入販売するパレスチナ・オリーブ代表の皆川万葉さんと共著『パレスチナのちいさないとなみ』(かもがわ出版)を出版しました。パレスチナの「おしごと」をテーマにした一冊です。お近くの書店でお取り寄せが可能です。
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http://www.miraisha.co.jp/np/isbn/9784624411022
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★『パレスチナ・そこにある日常』(未来社)
版元の未來社のページ
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