世界の笑顔に出会いたい

写真家・高橋美香のブログ。 公園にいたノラ猫のシロと暮らす。 カメラを片手に世界を歩き、人びとの「いとなみ」を撮影。 著作に『パレスチナ・そこにある日常』『それでもパレスチナに木を植える』(未來社)『パレスチナのちいさないとなみ』(共著)『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』(かもがわ出版) 写真集に『Bokra 明日、パレスチナで』(ビーナイス)

2023年02月

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アブーアリーが殺されたことを知って、三日目がやってきた。

なにをしていても、アブーアリーとの思い出がよみがえる。

彼が、腹部を撃たれて救急車で運ばれる際に、意識を失う直前、薄く目を開けてなにかをつぶやいている映像を観た。その最後の言葉を、彼の横で聴いていたのはAだった。決して公の場でこの名を明かすことはできないし、仮に彼をAとしておく。Aはわたしのとても親しいひとだ。そんな言葉ではあらわせないけど、とりあえずそこまでにとどめておく。

つまり、Aもアブーアリーと一緒に、キャンプに侵入してきたイ軍兵士と戦っていたのだろう。

アブーアリーの意識を覚醒させるために、救急車のなかで、Aは必死にアブーアリーに声をかける。でも、なにかをつぶやいたところで彼は意識を失い、その後、二週間の危篤状態におかれ、亡くなった。アッラーイェルハムー。

Aが「仲間」として、証言した映像も観た。アブーアリーは「殉教したい」となにかにつけてAに語っていたそうだ。そして「殉教」した。泣きはらした目でそれを語るAの姿。同じく泣きはらした目で銃を片手にアブーアリーの葬列の先頭に立つA。もう覚悟を決めているのだろうと思う。

「殉教したい」という言葉の裏側にある、「尊厳のある人生を生きていたかった」という強い思い。そんな人生であれば、誰が「死ぬことを覚悟で戦う」ことを選ぶだろうか。

同じ難民キャンプで「占領下で尊厳を奪われ、ただ生きながらえることが『生きている』と言えるのか?」と、母親に投げかけた言葉。その母は、「どんなにみっともなくてもいいから、生きていてほしい」と返した。この母子の心から血を流すような葛藤が、伝わるだろうか?

「殉教したい」と口にするアブーアリーに、どれだけの葛藤と悩み苦しみがあったのかと思うと、わたしはやはり「見殺しにしたのだ」と確信する。もうずっと、わかっていた。尊厳のない生の絶望感を、感じていたはずなのに。前にもハムザを「見殺しにした」のに。

どんな言葉も虚しい。本をつくって、語って、それを「伝える」ことの意味がよくわからなくなる。友達の尊厳もまもれず、その命も救えず「見殺しにしている」自分が「伝える」って、なんのためなんだろう。彼らは「伝えられる」ために生まれてきたわけでも、その人生があったわけでも、殺されたわけでもない。

もう無理、もうやめたい。虚しい、「意味」がわからない。どれだけ頑張っても、親しい大切なひとたちが死に逝くことすら止められない。

そうやって泣いていたとき、3/10、3/11の出版記念会の主催者高山さんから、イベントの手書きチラシが届いた。正直に言うと、それを目にするまでは、高山さんにも宇夫方さんにも関係者のみなさまにも、なにより参加を申し込んでくださった方にも申し訳ないけど、断る気持ちと半々だった。もうさすがに無理だと思った。自分自身が「伝える」意味がわからないのに、「伝える」ための本とかトークとか、なんの冗談だよって気がした。

でもね、高山さんが書いてくれた手書きの文字を読んでいると、「ああ、ここにもひとり、悩み哀しみもがき、足掻きながら、確かに一緒に『考えよう』『想像しよう』『立とう』としてくれているひとがいる」と感じた。なにも言われなくても、このチラシだけで十分伝わってきた。だから、これだけは、ともかくやると決めた。これだけはやると思ううち、とりあえず、いまもうすでに動き始めていることだけは、やると決めた。

アブーアリーが、悩み苦しみぬいて「殉教」を決めたことを、「なかったこと」にしてたまるかと思う。消されてたまるかと思う。ただその一心かもしれない。

わたしの「伝える意味」なんて葛藤は、どうでもいい。そんなもん一生ひとりで悩んでろ。

アブーアリーが生きていたことだけは、絶対に消してたまるか。そのために語らなければ残せないなら、書かなくては「消されてしまう」なら、この世に生きている限り、やるしかないんだとわかっている。

アブーアリー、どうか安らかに。
Aに「まだこっち来んなよ」って言ってやってほしい。
Aに対して、一番「伝わる言葉」をもっていたのは、アブーアリーだったから。

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"ママとマハとミカとアブーアリー”(独断で勝手にタイトル変えちゃった)
~『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』出版記念~

主催者(高山正樹)から。。
残された時間、徹底的に沖縄にこだわると決めたボクにとって、パレスチナは躓きの石です。この表現が適切かどうかは分かりませんが、ともかく世界には沖縄以外にもたくさん考えなければならないことがあるということを決して忘れないために、ボクは、ずっとパレスチナに向き合ってきた高橋美香という友人を、ことあるごとに引っ張りだしてイベントを企画してきました。

いわば「沖縄~パレスチナ~そして世界へ」、そんな大風呂敷を広げているわけですが、でも、今回皆様に聞いて知って頂きたいのは、パレスチナに生きる二人の女性が体験してきたこと、あたりまえですが、我々と変わらない人間の、個々の顔の見える小さな営みです。そうだからこそ、世界に繋がるのだということを信じて。

皆様のお越しを、心からお待ちしています。

会場:M.A.P.(狛江の小さな沖縄資料館)
日時:3月10日(金)19:00~
   3月11日(土)14:00~
参加費:本付き 3000円
    本無し 1500円
    リモート参加もOK(サイン本付きは送料込みで3200円)
    高校生以下 500円

リモートはZoomでの開催を予定

会場定員各回15名
※今回は入場者を少数に限定しますので、会場参加ご希望の方は、必ずご予約のご連絡をお願いします。
ご予約は下記のサイトからお申し込みください。リモートでの参加ご希望の方もお申込みできます。PayPay、クレジット、コンビニ払いが可能です。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお問合せ下さい。

お申し込み専用ページ
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/023ngcjzvmw21.html

ご予約、お問合せ:03-3489-2246(M.A.P.エムエイピイ)


先月1月20日、新著『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』(かもがわ出版)が刊行された。
かもがわ出版|パレスチナに生きるふたり ママとマハ (kamogawa.co.jp)

本当は、この本についてじっくり紹介しなければならないけれど、今日の本題はそこじゃないので、話を先に進める。でも本のなかに出てくるひとのことなので、おいおいと。

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ジェニン難民キャンプの「弟」たちの幼なじみで親友のアブーアリーが、二週間ほど前にキャンプに侵攻してきたイスラエル軍の兵士に腹部を撃たれ、この二週間危篤状態で、今日亡くなった。

その一報を目にしたのは、ツイッターだった。そのまま貼りつけておこう。

ああ、手が震えて、文字もまともに打てません。確認が取れました。ジェニン難民キャンプで2週間前に腹部を撃たれて今日亡くなったのは、「弟」たちの幼馴染の親友アブーアリー(ムハンマド)だったことが。 https://t.co/ZYTvEXwA01

— 高橋美香 (@mikairvmest) February 23, 2023 " target="_blank" title="">http://

ツイートでも言及しているとおり、新著『ママとマハ』のなかにも、彼が写っている写真は二枚収めているし、前著『パレスチナのちいさないとなみ』には、丸々1ページアブーアリーの「仕事」を紹介したページもある。『それでもパレスチナに木を植える』では、一家の裏庭の家畜小屋づくりに際して、リーダーシップを取ってくれたのは、本職である彼だった。

アブーアリーとの思い出は、数限りなくある。なぜなら、弟たちの幼なじみの親友たちのなかで、わたしが一番親しかったのも、話をしたのも、一緒に時を過ごしたのも、信頼していたのも、好きだったのもアブーアリーだったから。物静かで、自分が損な役回りになろうとも、嫌がらずに引き受けて、コツコツと自分の役割をしっかり担うヤツだった。頼りになるヤツだった。

初めて出会ったころは、彼も弟たちと一緒に演劇をしていた、一緒に「盗まれた夢」の舞台に立っていた。そのころの写真を見返してみると、ああ、記憶の彼方にしまわれていた、アブーアリーと一緒に写った写真が出てきたよ。まだ彼が19歳のころの写真。(3/10と3/11の出版記念会のトークの際にはその写真をご紹介します)

「生まれた場所や時代が違っていたら、違う人生があっただろう」「ここでは、あまりに簡単にひとの命が奪われていくから」、『ママとマハ』のなかには、そんな言葉を綴った。

でもね、アブーアリーまでが殺されたいま、その言葉は、いったいどれほどの重みと実感を持って書かれたのだろうと、自分自身に問いかけざるを得ない。こんな風に、アブーアリーの死をみつめながら、この言葉を反芻する日が来るなんて、想像もできていなかった。誰の身に、こんなことが起きてもおかしくないとアタマではわかっているはずなのに、その日が来ると、ただ呆然としながら、手が震え、涙が止まらず、頭がガンガンしてきて、呼吸の仕方もわからなくなる。

あと何回こんな思いをすれば、終わりが来るのだろう。終わらせられるのだろう。それまでに、あと何人の死と、親しかったひとたちの苦しみを目にすれば終わるのだろう。

アブーアリー、もう二度と会えないなんて信じられないよ。あんなに一緒に笑ってたじゃん。ジェニンを離れる最後の日に「またね」って言ったじゃん。悔しすぎる。哀しすぎる。虚しすぎる。

穏やかで、包容力のカタマリみたいなヤツで、大好きだった。弟たちの幼なじみのなかで、一番大好きだった。すげーいいヤツだった。

どうかどうか、その魂が安らかならんことを。
(左・アブーアリー、右・「弟」のカマール)

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『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』出版記念スライドトーク

"ママとマハとミカ"
~『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』出版記念~

主催者(高山正樹)から。。
残された時間、徹底的に沖縄にこだわると決めたボクにとって、パレスチナは躓きの石です。この表現が適切かどうかは分かりませんが、ともかく世界には沖縄以外にもたくさん考えなければならないことがあるということを決して忘れないために、ボクは、ずっとパレスチナに向き合ってきた高橋美香という友人を、ことあるごとに引っ張りだしてイベントを企画してきました。

いわば「沖縄~パレスチナ~そして世界へ」、そんな大風呂敷を広げているわけですが、でも、今回皆様に聞いて知って頂きたいのは、パレスチナに生きる二人の女性が体験してきたこと、あたりまえですが、我々と変わらない人間の、個々の顔の見える小さな営みです。そうだからこそ、世界に繋がるのだということを信じて。

皆様のお越しを、心からお待ちしています。

会場:M.A.P.(狛江の小さな沖縄資料館)
日時:3月10日(金)19:00~
   3月11日(土)14:00~
参加費:本付き 3000円
    本無し 1500円
    リモート参加もOK(サイン本付きは送料込みで3200円)
    高校生以下 500円

会場定員各回15名
※今回は入場者を少数に限定しますので、会場参加ご希望の方は、必ずご予約のご連絡をお願いします。FBでの参加表明だけでは、ご予約にはなりませんので、よろしくお願いします。
ご予約は下記のサイトからお申し込みください。リモートでの参加ご希望の方もお申込みできます。PayPay、クレジット、コンビニ払いが可能です。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお問合せ下さい。

お申し込み専用ページ
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/023ngcjzvmw21.html

ご予約、お問合せ:03-3489-2246(M.A.P.エムエイピイ)


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