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一昨日、70日間の旅を終えて帰国しました。

旅のあいだの日々のことは、思いつくままにその時々にTwitterにて綴っているので、過去にさかのぼって追って読んでみてください。

滞在当時には明言できなかったいくつものこと、「どこで」「誰が」「誰によって」などの具体的な事柄はできるだけ避けていました。特に、包囲されて攻撃が続けられていたジェニン難民キャンプでの日々のことは、誰にどんな悪影響が及ぶかわからず、判断ができなかったので、できるだけ明記を避けました。

今回、「ジェニン難民キャンプ以外の場所の友人知人のすべて」にジェニン難民キャンプに行くことを反対されました。説得できなかった友人には、内緒で向かいました。事後報告をして「わかってたよ。本気で心配だった。でも止めても無駄だということもわかってた。一応止めたからなという、自分を納得させるものがほしかったのかも」と友の言葉。「ミカは大バカヤローだ」という言葉とともに。でも無事に戻ると、みんな「無事でよかった」と強く抱きしめてくれました。でも、私には「安全な、帰る場所」がある。無事では済まなかった、多くの友のことを思います。

行く前に、ジェニン難民キャンプのマハとよくよく話し合いました。私が行くことで、一家に背負いきれないような種の迷惑がかかることだけは、絶対に避けたかったことでした。でもマハは「ミカにしっかり見てほしい。来てくれるというなら大歓迎だ。電気も水も断たれ、インフラも去年来てくれた時以上に破壊され、なにより包囲されて攻撃されているけれど、それでもいいなら大歓迎」と。

こうして、最終的にジェニンの街で会って、面と向かって話して最終確認をして、一緒にジェニン難民キャンプに向かいました。包囲された中でどうやって、などの話は、これから各地でおこなうトークの場などでお話します。

僅かにここに記すとすれば、包囲されて攻撃されて一日中銃声が続くなかでの「日常」は、困難だらけでした。一番辛かったのは、自由に外も歩けないこと。歩けなければ、写真も撮り歩けない。猫たちを撮り歩くことすらできませんでした。

常に恐怖でした。運が悪ければ、死ぬんだなと常に感じながらの日々でした。でも「ここで生活をしている」マハたちが、「ここで生活を続ける」と考えている限りは、それをしっかり見つめようと決めました。もしも「もうこれ以上はここでは生活を続けられない」と彼女たち一家が判断したときが、自分も一緒に逃げる時だと決めました。

そのあいだに、攻撃は激化し、隣の家の前が爆撃されて六人が一度に爆殺されるという最悪の夜も経験しました。この話も、まずはトークの場などで話すよう努めます。

そして、1月21日、とうとうイスラエル軍の大規模な軍事侵攻が始まった。「イスラエル軍による大規模な軍事侵攻が始まったら、そのときは逃げる」と、マハたちは常々言っていたので、とうとう「そのときがきた」と覚悟を決めました。

でも実際には、空からはアパッチヘリによる攻撃があり、背後では爆撃まであり、逃げようとする方向の前方から地上でも銃撃が始まる。実際にこの日多くの方が逃げる過程で撃たれて怪我を負わされました。無事に逃げられたのは、ただ単に「運が良かっただけ」に過ぎません。避難の過程の混乱も、みんなの混沌も、泣きながら「どこに行けばいいの?どこに行けっていうの?」とつぶやき続けたマハの姿を、一生忘れません。抱きしめることしかできなかった。

避難をすれば「終わり」ではありません。避難先での「日常」が続きます。それは、常に誰かの「厚意」にすがるしかない重い重い避難生活。「たとえ瓦礫であっても帰りたい」避難民の居候という立場にすぎない私ですら、毎日それを望みました。避難生活は本当に辛かった。直接攻撃を受けていた難民キャンプの日々以上に。

今日は猫の日。ずっと難民キャンプのマハの家のそばで暮らしていた、ムームーと名付けて愛した、悲しい疲れ切った顔をした小さな猫のことを思い続けています。案じ続けています。家に帰って、シロくんのつつがない日々の姿を愛しく思えば思うほど、あの地で生きていたムームーのことを痛切に思います。生きていてほしいです。でもそれは、もしかするとかえって残酷なことなのかも。答えはずっと出ません。ひとのいとなみの「消えた」、いや恣意的に消し去れらたあの地で、小さな野良猫さんが生き抜くことは難しいでしょう。こんな悲しい「物語」が、難民キャンプの猫の数だけ、ひとの数だけある。マハやその周囲の人々の姿を一例として語ることでしか、途方もない困難のなか私を受け入れてくれた彼女らに返せる恩はありません。

だから、頑張って少しずつ「言語化」していこうと思います。気持ちや目の前で起きたことを表す言葉が全然みつからなくて、ずっと悩み続けながら、それでも。

写真はムームー。

【トークのご案内】
3/9(日)13時半からNHK学園くにたちオープンスクールにて講座「ぱれすちなのちいさないとなみ」をおこないます。今回の最新報告が内容の主となる予定です。帰国後最初の報告の機会になります。いままで明記や明言を避けていたことを、少しずつ言葉にできるように、精一杯努めます。

足をお運びいただければ幸いです。

3/9 パレスチナのちいさないとなみ | 生涯学習オープンスクール | NHK学園 (n-gaku.jp)